兄妹は事件のショックで口も開きません。それでもコミュニケーションはそれなりに成立していて、それなりの生活ができています。しかし学校も行かず、口も開かない二人がそのままでいいはずがありません。沢井は、ショベルカーの操作を教えてもらいながら、バスの運転手になりたかった頃のことを思い出します。そして、路線バスの運転手に戻ることはさすがにしませんが、中古の小型バスを買う決意をします。そして一緒に家を出ようと。
当然ながら、いとこは兄妹にバスに乗れなんて、常識外れだと言いますが、兄妹は、自主的にバスに乗ることに。そして、出かけます。
主な行き先が阿蘇です。阿蘇山中岳の火口や米塚などが映されます。ただ、この映画、ほとんどはちょっと色のついたモノクロ（モノクロネガ撮影カラーポジプリント）です。
“ＥＵＲＥＫＡ”とは、「見つけた」という意味のギリシャ語だそうで、映画では、事件のトラウマ（精神的ショック）からの立ち直り、再出発を意味するのでしょうか。
ラストは大観望のシーンですが、ここだけがカラーとなり、空撮の映像となります。それまでの精神的ショック状態をモノクロで表現したのでしょうか。しかし、そのモノクロがあまりにも長く、また、セリフの聞き取りにくさもあり、観続けるにはちょっと我慢を強いられるようにも感じます。
３時間３７分という上映時間も半端ではありません。平均的な映画２本分です。それに、兄も妹もほとんどセリフがないのです。ほとんど沢井といとこ（斉藤陽一郎）のセリフで進行します。兄妹はしぐさだけです。それでも、２本分の映画を観たというほど長くは感じませんでしたし、二人もが無口で演じていても、全然違和感がありませんでした。このように実験的な要素の多い映画ですが、そういう見方からすれば成功していると言えそうな気がします。
バスが走り、それをカメラが追うシーンがありましたが、その背景に屏風のように連なる山並が映されていたシーンも印象的でした。阿蘇の外輪山でしょうか。
西原という地名の道標もちらっと映っていましたが、やはり阿蘇の近くの西原でしょう。
バスジャックや通り魔殺人をあつかっていて、公開前の2000年5月に17歳の少年が起こした西鉄バスジャック事件などとの時代背景もあり、一部の若者の心を捉えた映画だったのかもしれません。
舞台が九州であるだけでなく、役者も九州出身者が多いようです。役所広司は長崎県諌早市出身、国生さゆりは鹿児島県鹿屋市出身、光石研、松重豊、でんでん、椎名英姫、中村有志は福岡県出身。監督の青山真治も福岡県出身です。
兄妹を演じたのは、宮崎将と宮崎あおい。つまり実の兄と妹です。2005年の『NANA』や2008年NHK大河ドラマ『篤姫』で活躍した宮崎あおいの子供時代を見られるのも貴重です。ただ、役柄上ほとんどセリフがないのが残念ですが。
２０００年カンヌ国際映画祭 国際批評家連盟賞、エキュメニック賞を受賞しました。
評価：４８点
【監督・脚本・編集】青山真治（あおやま しんじ）
【プロデューサー】仙頭武則（せんとう たけのり） （『死国 しこく』、『弟切草』などの脚本も担当しています）
【撮影】田村正毅（たむら まさき）
【音楽】青山真治、山田勲生（やまだ いさお）
【出演】
役所広司（バス運転手 沢井真（さわいまこと）役） （『突入せよ！「あさま山荘」事件』などにも出演しています）、
宮崎あおい（妹 田村梢役）、
宮崎将（みやざき まさる）（兄 田村直樹役）、
斉藤陽一郎（いとこの秋彦役） （『弟切草』などにも出演しています）、
国生さゆり（弓子役）、
光石研（みついし けん）（シゲオ役） （『シュガー＆スパイス 風味絶佳』などにも出演しています）、
利重剛（りじゅう ごう）（犯人役） （『蝉しぐれ』などにも出演しています）、
松重豊（松岡役） （『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』などにも出演しています）、
塩見三省（しおみ さんせい）（沢井義之役） （『Love Letter』などにも出演しています）、
真行寺君枝（しんぎょうじ きみえ）（田村美都役）、
でんでん（吉田役）、
椎名英姫（しいな えいひ）（河野圭子役）、
中村有志（なかむら ゆうじ）（田村弘樹役）、
江角英明（えすみ えいめい）（沢井誠治役）、
尾野真千子（沢井美喜子役）、
井上肇（市川役）
【上映時間】３時間３７分
【製作】電通、ＩＭＡＧｌＣＡ、サンセントシネマワークス、東京テアトル
【配給】サンセントシネマワークス、東京テアトル
【公開】２０００年
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