時代劇でありながら現代的なものの考え方や立ち居振る舞いがあったりするのも『たそがれ清兵衛』と似ていると感じました。女性の着物が現代的で綺麗すぎるとも感じました。まあ、逆の言い方をすれば、時代劇とはこうあるべきだ、という固定観念が自分の中に出来てしまっていることもあるのかもしれません。実際にその時代を生きていたわけではないのだから、そんなはずはない、なんて断言できないでしょうし。これが山田洋次が描く時代劇の特徴なのでしょう。すり足での走り方も、時代劇では当たり前のように見ていましたが、本作では西洋式（現代）の走り方と比較させて見せたりしていて、興味深かったです。
ロケ地も『たそがれ清兵衛』と同じく、庄内地方がメイン。背景にはところどころで山が映っています。それは早春の山であったり、真っ白い山であったりしていました。それらがどこの山なのか、よくわかりませんが、少なくともエンドクレジットのバックに映る真っ白い山は月山でしょう。フキノトウが出てくるのも『たそがれ清兵衛』と同じで、今回はさりげなく道端に生えていましたが、これらのフキノトウは撮影のために移植したものらしいです。このシーンは本格的なロケ初日で、羽黒町玉川の水田地帯だそうです。ロケ地は、他に金峰山や羽黒山の付近でも行われたようです。
最初に観たときには気づきませんでしたが、長野県飯田市の大平宿でもロケが行われたようです。ロケは2004年5月で、クライマックスの決闘シーンです。舗装されていない路地と家並みがロケに使われても不思議はないでしょう。撮影の長沼六男が飯田市上久堅出身だそうで、その縁でのロケとなったそうです。このロケ撮影スタッフの紹介で、同年12月には、中国映画『呉清源』のロケ地にもなり、出演者の松坂慶子も訪れたそうです。私もここを２回訪れたことがあり、宿泊し、夏焼山・兀岳、本高森山に登っています。
どうしても「必殺仕事人」シリーズを思い出してしまうのも『たそがれ清兵衛』と同じです。ただ、今回はさらに、もろにそのまま、ってシーンもありました。『隠し剣 鬼の爪』なんて題名からも、それっぽい感じはありますが。
見どころは、主演の永瀬正敏と、松たか子。この組み合わせは新鮮でした。そして見慣れた豪華共演者。
この映画のストーリーは、大きく２つの筋があります。１つは、平侍の片桐宗蔵（永瀬正敏）と、その家に奉公に来ていた娘、きえ（松たか子）との恋。そしてもう１つが、謀反を起こした以前の仲間、狭間弥市郎（小澤征悦）を、藩命を受けて斬りに行くこと。読んではいませんが、原作も、『隠し剣鬼ノ爪』と『雪明かり』の２つとなっています。でも、この映画の題名はいかにもマイナーで、一部の時代劇ファンしか観ないのではないかと思ってしまいます。どうせなら、『雪明かり』の方を採用すれば、もう少しメジャーになったのかも、なんて思いました。
評価：５５点
【監督】山田洋次
【脚本】山田洋次、朝間義隆
【原作】藤沢周平 『隠し剣鬼ノ爪』、『雪明かり』
【撮影】長沼六男
【音楽】冨田勲
【美術】出川三男
本作品で、２００４年日本アカデミー賞美術賞を受賞しています。
【衣裳】黒澤和子
黒澤明の娘で、『たそがれ清兵衛』の他、『阿弥陀堂だより』で衣裳協力もしています。
【出演】
永瀬正敏（片桐宗蔵（むねぞう）役）、
松たか子（伊勢屋に嫁入りした きえ役）、
小澤征悦（江戸で謀反を起こし郷入りになる狭間弥市郎役）、
緒形拳（家老 堀将監役）、
吉岡秀隆（島田左門役）、
田中泯（戸田寛斎役）、
田畑智子（宗蔵の妹で左門の妻になる 島田志乃役）、
小林稔侍（大目付 甲田役）、
高島礼子（弥市郎の妻 狭間桂役）、
光本幸子（伊勢屋のおかみ役）、
田中邦衛（片桐勘兵衛役）、
倍賞千恵子（宗蔵の母 片桐吟役）、
斉藤奈々（きえの妹 ぶん役）、
赤塚真人、
松田洋治、
神戸浩、
近藤公園、
笹野高史、
綾田俊樹
【製作】松竹、日本テレビ放送網、住友商事、博報堂ＤＹメディアパートナーズ、日本出版販売、衛星劇場
【配給】松竹
【撮影協力】山形県、山形県鶴岡市・羽黒町・櫛引町・朝日村、秋田県かくのだてフィルムコミッション、長野県飯田市、京都府亀岡市
【ロケ協力】国宝姫路城 姫路フィルムコミッション、国宝彦根城 滋賀ロケーションオフィス、洞雲院、松根庵、青柳家、大平宿をのこす会、京丹後市琴引浜
【支援】文化庁
【上映時間】２時間１１分
２００４年作品
