熊に遭ったときの心得を小屋主が訪れた客たちに説明します。「まず立ったまま、お前に見つかったという目つきをし、そしてゆっくり後ずさりする」と。アラスカ・ヒグマは獰猛で、人間を一度殺すと一生人食い熊になる、という話も。
カメラマンのボブ（アレック・ボールドウィン）がチャールズを誘い、水上飛行機で飛びに行きます。ところが水上飛行機が渡り鳥の群れとぶつかり、湖に落下してしまいます。チャールズとボブとボブのアシスタントであるスティーブ（ハロルド・ペリノー）の３人は脱出します。しかし、そこは山奥。助かるには救助隊に見つけてもらうか、自ら歩くしかありません。チャールズは、「人が道に迷って死ぬ原因は、『恥』だそうだ」と言います。そして、「やるべきことは、『考えること』だ」と言い、三人で生き延びようとします。
サバイバルの方法がいくつも出てきます。「南を目指そうと言うが、方向はどうやってわかるか」との問いに対し、時計の短針から読み取る方法をとろうとします。しかし壊れたりして誰も持っていないことがわかります。ならば渡り鳥の向かう方向が南だと。しかし渡り鳥も飛んでいない。ならばコンパスを作ろうと。針のようなものに磁力を持たせて、水の上の葉に載せます。持っていたクリップを伸ばし、こすって磁力を持たせます。そして針葉樹の森を歩きます。
そして熊のお出まし。チャールズは言われた通りに立って熊を見た後、後ずさりします。しかし、熊は三人を追ってきました。逃げる三人は滝口に出てしまいます。近くの倒木で対岸まで橋をつくり、渡ります。そして最後にチャールズが渡るときに、熊に追いつかれ、熊は橋を揺らします。チャールズは落ちかけますが、二人に助けられます。熊はどうやって撮ったのでしょうか。ＣＧのようにも見えません。よほど訓練された熊なのでしょうか。顔立ちからは、野生らしさはあまり感じられませんでした。映画の最後でそれはわかります。熊の名はバートで、調教師はダグと言い、映画の最後に感謝の意を述べています。この熊との遭遇シーンは多く、かつ迫力があり、この映画の見どころであることには違いありません。アンソニー・ホプキンスは『レジェンド・オブ・フォール』でも熊と共演しています。
三人はさらに歩きます。背景にはひときわ尖ったアシニボイン山が見えます。ロケはカナダで、アルバータ州では、Banff National Park（バンフ国立公園）など。ブリティッシュ・コロンビア州では、Mount Assiniboine（アシニボイン山）などのようです。
リングワンデリングをしてしまうシーンもあります。カシオペア（ビッグ・Ｗ）から北を確認するシーンもありました。ナイフで足を傷つけてしまったスティーブは、血の匂いで寄ってきた熊に咬み殺されてしまいます。チャールズとボブの二人になり、降雪にも耐えます。罠をしかけてリスも捕らえます。懐中時計の純金のチェーンを疑似餌にして、衣服の繊維を釣り糸にして、魚も獲ろうとします。そこにまた熊が。最後には熊と戦う決意をし、罠をしかけますが、失敗し、沢へ逃げ、そこで、襲われそうになるところを木で突き刺します。もちろん熊は肉となり、飢餓状態を救います。
この映画は、大自然の中でのサバイバルには違いありませんが、さらにそこに男同士の助け合いと不信感を同居させています。億万長者で若く美しい妻を持つチャールズは、ボブが妻と不倫しているのではないかと疑います。そしてボブが自分を殺そうとしているのではないかと。しかし、冷静で知性のあるチャールズは、そんなボブに対しても寛容な態度で接します。この緊迫感と葛藤が観ている者を引き寄せるのでしょう。もう少し正確に言うと、チャールズの中に葛藤があるかどうかもはっきりわからないような感じなのです。
また、よくあるパターンだと、遭難するメンバーの中に、男と女がいて、愛が芽生えるなんてのがありますが、この映画では、３人とも男なのです。出発する前の山小屋でチャールズの妻であるミッキー（エル・マクファーソン）が写真のモデルとなったりしていますが、華やかさはそれぐらいです。ラストシーンも特に感動的でもありません。そういう意味では娯楽映画としてはどうかとも思いますが、それだけ、チャールズの思考と行動に焦点を集中させているということも言えるかもしれません。もっとも、「大自然の中でのサバイバル」や「人食い熊との格闘」という表面的なところに目がいってしまいそうなのも確かですが。表面的には自然を描きながら、じつは人間を描いている映画なのだと思います。
原題の、"THE EDGE" とは、「危機」などという意味もあるようです。
評価：７２点
【監督】Lee Tamahori リー・タマホリ
『００７／ダイ・アナザー・デイ』なども監督しています。
【脚本】David Mamet デヴィッド・マメット
『郵便配達は二度ベルを鳴らす』などの脚本も手がけています。
【製作】Art Linson アート・リンソン
『ファイト・クラブ』なども製作しています。
【撮影】Donald M. McAlpine ドナルド・Ｍ・マカルパイン
『タイムマシン』などの撮影も担当しています。
【音楽】Jerry Goldsmith ジェリー・ゴールドスミス
『猿の惑星』、『オーメン』など多くの作品で音楽を担当しています。
【出演】
Anthony Hopkins アンソニー・ホプキンス（読書家の億万長者 Charles Morse チャールズ・モース役）、
Alec Baldwin アレック・ボールドウィン（カメラマンの Robert Green ボブ役）、
Elle Macpherson エル・マクファーソン（チャールズの妻 Mickey Morse ミッキー・モース役）、
Harold Perrineau ハロルド・ペリノー（ボブのアシスタントで熊に咬み殺される Stephen スティーブ役）
【製作国】アメリカ
【原題】THE EDGE
【上映時間】１時間５５分
【配給】20世紀フォックス
１９９７年作品
