そして期待は裏切られませんでした。
山は出てきませんが、戦場と山とは共通するところがあると思うのです。『ブラックホーク ダウン』もそうですが、リアルな戦争映画だと、つい山のことを思い浮かべてしまいます。
ポーランドのユダヤ人ピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンが、第二次世界大戦でゲットー（ユダヤ人居住区）生活を余儀なくされる。前半はナチスに翻弄されるだけで、観て失敗だったかな、と思ったのですが、貨車に乗せられる直前に家族と生き別れてからは、力強く生への意欲がみなぎり、サバイバルが始まります。
そのサバイバルがまさしく山でのサバイバルを見ているように思えたのです。ユダヤ人が戦争で生き延びられる確率は低い。しかしその中でも必死に生き延びようとしている姿が美しい。自分ではどうしようもない時代に翻弄される受動と、自分の力で生き延びようとする能動、この２つがしっかりとバランスよく描かれていました。 山でも同じことが言えると思います。自然を前にして、人間は微力でしかありませんが、それでも努力して山頂をめざすこと。また、遭難して生き延びようとするのも同じように思えます。
監督は自身もゲットー生活の経験があるロマン・ポランスキー。そのためか、前半の描写は力みすぎかと思えてしまいました。
この映画は激動の時代を生きた実在のピアニストを描いていますが、何も過去の戦争を描いているだけではなく、現代を生きる我々に生きる勇気を与えてくれています。（平和ボケの日本でこんなふうに思う人はあまりいないかな？）
２００２年アカデミー賞主演男優賞をエイドリアン・ブロディが受賞しているほか、監督賞、脚色賞も受賞しました。ただし作品賞が『シカゴ』だったのは、アカデミー賞らしい、といったら皮肉になるでしょうか。
ピアニストを題材にした映画は他にも多くあり、例えば、オーストラリア映画の『シャイン』。こちらも実在のユダヤ人ピアニストが主人公です。どちらかというと、この映画の方がピアニストを純粋に描いていて、こちらの原題を、"THE PIANIST" とした方がぴったりきそうです。
『戦場のピアニスト』はピアニストである必然性はどこにもないのです。戦争を描くための題材でしかありません。だからこの映画は、ピアニストの映画ではなく、戦争の映画と言えます。
ちなみに『シャイン』もアカデミー賞主演男優賞を受賞しています。
他には、『暗い日曜日』。これもナチスとユダヤ人、そして実在したピアニストを題材にしたなかなかの名作と言ってもいいでしょう。これは戦争をメインに描いているというよりは、「人」を描いていると言えるでしょう。
ピアノのシーンは、何年もピアノをひいていないのに、いきなりそんなに指が動くのか、と冷めた目で見てしまいましたが、これは私のレベルが低すぎるからで、一流ピアニストならそんなことはないのかもしれません。
また、ユダヤ人迫害を描いた秀作には、『この素晴らしき世界』という2000年製作のチェコ映画もあります。邦題はちょっと古臭さを感じてしまいますが、ユダヤ人をかくまう夫婦と、その周辺の人々を描いています。そして主な登場人物はみな被害者として描かれています。戦争という個人レベルではどうしようもない激動の時代を生き抜くためには、理不尽なことをも受け入れ、自分をもだまし、そして助け合う。助け合って生き延びるしかすべがなかった時代を描くことにより、人と人とのつながりをテーマとしていると言えるでしょう。でも、この助け合いは、平和な時代にこそ映画として描かれていることに意味があるのでしょう。現代では、平和で便利なものに囲まれて、一人でも生きていけると錯覚してしまいがちです。そんな時代だからこそ、人とのつながりや助け合いの大切さ、素晴らしさを再認識させてくれます。
評価：８０点
【監督】Roman Polanski ロマン・ポランスキー
【原作】Wladyslaw Szpilman ウワディスワフ・シュピルマン
【脚本】Ronald Harwood ロナルド・ハーウッド、Roman Polanski ロマン・ポランスキー
【撮影】Pawel Edelman パヴェル・エデルマン
【音楽】Wojciech Kilar ヴォイチェフ・キラール
【出演】
Adrien Brody エイドリアン・ブロディ（Wladyslaw Szpilman ウワディスワフ・シュピルマン役）、
Emilia Fox エミリア・フォックス（ドロタ役）、
Michal Zebrowski ミハウ・ジェブロフスキー（ユーレク役）、
Ed Stoppard エド・ストッパード（ヘンリク役）、
Maureen Lipman モーリン・リップマン（母役）、
Frank Finlay フランク・フィンレイ（父役）、
Jessica Kate Meyer ジェシカ・ケイト・マイヤー（ハリーナ役）、
Julia Rayner ジュリア・レイナー（レギーナ役）、
Valentine Pelka ヴァレンタイン・ペルカ（ドロタの夫役）、
Thomas Kretschmann トーマス・クレッチマン（ヴィルム・ホーゼンフェルト大尉役）、
Ruth Platt ルース・プラット（ヤニナ役）、
Ronan Vibert ロナン・ヴィバート（ヤニナの夫役）、
Popeck ポペック（ルービンシュタイン役）、
ワーニャ・ミュエス（ナチス親衛隊将校役）、
トーマス・ラヴィンスキー、ヨアヒム・パウル・アスベック
【製作国】フランス・ドイツ・ポーランド・イギリス
【上映時間】２時間２８分
【原題】THE PIANIST
２００２年作品
第55回カンヌ国際映画祭パルムドール受賞
http://www.thepianist-themovie.com/
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