娘が、「外は危ないわよ」と父のルーサーに言い、ルーサーは「いつもそうだよ」と言って、命を狙われている危険な家の外に出て行く。クリント・イーストウッドの最も似合う場面ではないだろうか。『アイガー・サンクション』の頃ように体を張った演技がないのは寂しい限りだが、齢をとってもあの気概が変わらないのは映画の中とはいえ素晴らしいと思った。

　危険に身を置くこと、山も同様である。危険だとわかっていても山に出かけてしまう。どうしてなのだろうか。命を賭けることが快感なのだろうか。ロシアンルーレットは恐怖なだけで快感ではないだろう。危険に身を置くこと自体が快感なのではない。危険を克服することが快感なのだろうか。克服の方法が重要なのかもしれない。自分の力を試すことが快感なのだろうか。しかしなぜわざわざ危険に身を置かなければならないのか。原始の狩猟期から戦争を経てきた現代に至るまでの人間（男だけ？）の性なのだろうか。などととりとめなく思考を巡らせてしまう。

　映画のラストは意外とあっさりしている。尻すぼみなのが残念である。逆に、同じくクリント・イーストウッド監督・主演の『トゥルー・クライム』は終わり方が良かった。死刑直前の男の無実を確信して、自分の利益にならないのに（それどころか離婚もされる）、助けるのに一生懸命になる。残ったものは死刑を逃れた男の幸せそうな家庭生活。街で軽く挨拶を交わす。これだけで満足感に満たされるのである。ちなみに、トゥルー・クライムのクライムはclimb（登る）ではなく、crime（犯罪）。
　ラストの良さは、『ミリオンダラー・ベイビー』にも言えます。この映画の一番いいところは、ラストの決断。尊厳死を自ら実行するのですが、クリント・イーストウッドらしさが凝縮されています。ボクサーとしてのヒラリー・スワンクの活躍は前振りに過ぎませんでした。ラストの決断をする勇気があなたにはありますか、実行できますか、と問いかけられます。歳をとっても、この強い信念を保ち続けているイーストウッドには感服するばかりです。

評価：７７点

【監督】Clint Eastwood クリント・イーストウッド
【原作】David Baldacci デヴィッド・バルダッシ
【脚本】William Goldman ウィリアム・ゴールドマン
【撮影】Jack N. Green ジャック・Ｎ・グリーン
【音楽】Lennie Niehaus レニー・ニーハウス
【出演】
　Clint Eastwood クリント・イーストウッド（大泥棒ルーサー・ホイットニー役）、
　Gene Hackman ジーン・ハックマン（リッチモンド大統領役）、
　Ed Harris エド・ハリス（刑事役）、
　Laura Linney ローラ・リネイ（ルーサーの娘役）、
　Scott Glenn スコット・グレン、
　Dennis Haysbert デニス・ヘイスバート、
　Judy Davis ジュディ・デイヴィス、
　E.G. Marshall Ｅ・Ｇ・マーシャル、
　Melora Hardin メロラ・ハーディン、
　Richard Jenkins リチャード・ジェンキンス、
　Kenneth Welsh ケネス・ウェルシュ、
　Penny Johnson ペニー・ジョンソン、
　Mark Margolis マーク・マーゴリス、
　Elaine Kagan エレイン・ケイガン、
　Alison Eastwood アリソン・イーストウッド
【製作国】アメリカ
【原題】ABSOLUTE POWER
【上映時間】２時間１分
１９９７年作品

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