舞台は1917年のサウスウェールズ。山の高さを測量するためにイングランドから２人の技師が来た。ウェールズに入って最初の山がフュノン・ガルウ(FFYNNON GARW)という山である。この山の標高を測定するのだが、1000フィート（305ｍ）以下なら「山」ではなく、「丘」になり、地図にも載らないのだという。これは地元の人たちにとって大問題である。
名前の違いを日本に当てはめてみると、さしずめ、「〜岳」と「〜山」みたいなものでしょうか。ただし、日本の場合はこの両者の違いは曖昧で、なんとなく、高くて険しい山に「〜岳」と名前が付いているようです。
話を戻します。フュノン・ガルウの標高の測量結果は、984フィート（299m90cm）。「丘」だったのである。そこで教会にみんなが集まり議論に。土を盛って「山」にしようと。しかし、牧師は最初、それに反対する。そんな姑息な手段で山の高さに手を加えるのはやめようと。しかし、議論の末、牧師も賛成側に。そして、測量技師を足止めして再測定させようとする。
あまりにもリアルな話なのだが、一応フィクションである。ただモデルの山は存在するという。それは、Garth Mountain(Hill) という1007フィート(307m)の山だそうである。ただし、ロケはMynydd-y-Gymという山で撮ったということです。
山の高さに関する伝説なら日本でもあちこちにある。有名なのは甲斐の民話で富士山と八ヶ岳の話。富士山と八ヶ岳の間に樋を渡して水を流したら富士山に流れた。悔しい富士山は八ヶ岳を蹴っ飛ばし、今のようなギザギザの山稜を持つ八ヶ岳になったというもの。また、愛知県にも石上げ祭で有名な尾張富士がある。本宮山（尾張本宮山）に負けた尾張富士の山頂には小石がいっぱいあるのを知っている。三河では石巻山と本宮山（三河本宮山）が争った。負けた石巻山は流れた水によって土が流され、山頂部は雄岩・雌岩という岩場になったという。ここにも小石を持って上がるという風習があるらしいが、それらしい場所を知らない。
このような伝説と、測量という現代の話を合体させてできたストーリーなのかもしれない。しかし実際にこのような話を聞いたこともある。それは北岳と奥穂高岳。北岳は富士山に次いで3192mと本邦２位の標高を持つ。奥穂高岳はそれより2m低い3190m。奥穂高岳には2m以上のケルンが実際にあり、この高さを加えれば北岳よりも高くなっていることになります。
映画の中では6mほどプラスしなければならないため、土台も大きくなります。そんな細かな描写まであるのがリアルです。おまけにラストは映画製作前に標高を測ったら1000フィートを切っていた、なんて話も出てきますが、どこまでが本当なのだろうか。
原題は"THE ENGLISHMAN WHO WENT UP A HILL BUT CAME DOWN A MOUNTAIN" 邦訳は、「丘に登って山を下りたイングランド人」。最初、なんのことか訳のわからない題名だと思いましたが、観終わった後なら納得です。なお、これはその人の呼び名である。映画の冒頭、この地域には同じ名前が多く、ウィリアムズ、ジョーンズ、エヴァンズだらけである、と、SOUTH WALES(EAST)の電話帳1960年11月号の映像から始まる。そこで、同じ名前が多いので、名字に職業をつけて呼ぶというのだ。日本でも僻地に行くと同じ名字の人ばかりで、屋号で呼ぶというのと同じである。
では、なぜ測量に来たイングランド人にそんな呼び名があるのか。鋭い人は気づいたかもしれないが、そこの土地の人と結婚したのである。この辺りは少しフィクションぽいかな。
邦題は「ウェールズの山」ですが、決してウェールズにはこんな低い山しかない、というわけではありません。カンブリア山脈には1000mを越える山もあります。あくまでウェールズの入口にある山が舞台なのです。そういう意味では、この邦題は誤解を招きそうな感じもしますが、まあ間違ってはいません。本当は原題の直訳の方が一見意味不明で面白いと思うのですが、やはり長いから短くしたのでしょうね。
いずれにしても、山好きでなければ、観ても何とも思わないような映画かもしれないけれど、山好きなら一度観る価値はあるのではないかと思いました。
評価：６８点
【監督・脚本】Christopher Monger クリストファー・マンガー
【撮影】Vernon Layton ヴァーノン・レイトン
【音楽】Stephen Endelman スティーヴン・エンデルマン
【出演】
Hugh Grant ヒュー・グラント（測量技師アンソン役）、
Tara Fitzgerald タラ・フィッツジェラルド（ミス・エリザベス（ベティ）役）、
Colm Meaney コルム・ミーニイ（モーガン役）、
Ian Mcneice イアン・マクニース、
Ian Hart イアン・ハート、
Kenneth Griffith ケネス・グリフィス
【製作国】イギリス
【原題】THE ENGLISHMAN WHO WENT UP THE HILL BUT CAME DOWN A MOUNTAIN
【上映時間】１時間３９分
１９９５年作品
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