村人たちのほとんどは町へ移住しましたが、一部の人たちは、汚染されたその村に残り、暮らしています。移住先を与えられても、街中の狭い家では窮屈だし、何よりも育った故郷を離れることはできないのです。
そう、テーマは「故郷」でしょう。現在の日本では、就職や転勤などで比較的簡単に故郷を離れてしまうことが当たり前のように行われていますが、一方で、故郷にこだわり、そこから離れられない人たちがいます。この映画で、今一度、「故郷の意味」、「故郷の大切さ」、「故郷とは」を考え、振り返ってみるのもいいかもしれません。ただ、現在では、私を含め、都会で生まれ育った人も多いでしょうが、そういう境遇だと実感としてはあまりピンと来ないこともあるかもしれません。
映像で見るドゥヂチ村は、静かで美しい自然があるようにしか見えません。鳥のさえずる田舎の風景が映し出されています。そして住んでいる人たちも、放射能に汚染されたと言われても、実感はないでしょう。この村にも四季があり、畑仕事、魚獲り、キノコ狩りなどをしています。収穫の秋、そして雪に閉ざされた冬、そして花咲く春。大きくは東ヨーロッパ平原と呼ばれるあまり起伏のない土地で、気候的にも寒冷で乾燥した土地なのでしょう。樹林はまばらで草原が広がる風景が映されています。
しかし、ほとんどの村人が去った場所は、学校も廃校になり、その区域へ外部から勝手に入ることもできません。子供がいる家庭は、学校にも行けないため、故郷であるドゥヂチ村から離れたくなくても、子供の教育のために、町に引越すしかないという状況も発生します。
題名にもなっている、ナージャは８歳の少女です。ロシア語の、"надежда"（ナヂェージダ） は、ナージャの正式な名前です。ナージャは愛称です。
『ナージャの村』の後、２００２年には同じ本橋成一監督の『アレクセイと泉』という映画が公開されました。こちらも同様の設定です。舞台は、ベラルーシ共和国ゴメリ州ブシシチェ村。ここでも、移住せず、そこに残る老人たちと一人の青年アレクセイがいます。畑でじゃがいもを採り、網で魚を獲り、森の木を伐って泉の補修などをします。イベントなども描かれていますが、『ナージャの村』よりも坦々と自然との共生生活が描かれています。
『ナージャの村』は、日本・ベラルーシの共同製作です。こういう情景を残そうとした日本人がいたことに感心します。事情は違いますが、日本では、かつての徳山村もそうだったと思います。ダム建設のため、村人は、移住させられましたが、一部の村人は、そのまま残り、そんな家からは、煙突から煙が立ちのぼっているのを、奥美濃の山へ登りに行く途中に見かけたことがあります。そんな徳山村も今はなくなり、藤橋村に合併され、徳山ダムは完成しました。
『ナージャの村』を観て、徳山村を想像したのは、どうやら私だけではないようで、監督の本橋成一氏が『水になった村』という２００７年公開の映画で、企画・製作を担当していることを後で知りました。この映画は、ずばり徳山村を描いた映画です。
評価：５５点
【監督・企画】本橋 成一
【原案】本橋成一写真集 無限抱擁 リトル・モア刊
【製作】神谷さだ子、小松原時夫
【撮影】一之瀬 正史（いちのせ まさふみ）
【音楽】小室 等
【演奏】小室 等、佐久間 順平、竹田 裕美子、田代 耕一郎、西沢 幸彦
【語り】小沢 昭一
【台詞構成】阿奈井 文彦
【出演】
ナジェージダ・ユラーノバ （ナージャ）、スベータ、ボーブカ、クルチン、チャイコバーバ
【上映時間】１時間５８分
【製作国】日本・ベラルーシ共同製作
【製作協力】ベラルーシ共和国文化省、在日ベラルーシ大使館、ロシア映画作家同盟、アエロフロート ロシア 国際航空、ゴメリ市消防署、ゴメリ州執行委員会、チェチェルスク地区執行委員会、日本チェルノブイリ連帯 基金、ＢＯＸ東中野、シグロ、交栄印刷株式会社、フライング・エレファント、ワークショップ・ミュー、カ サマフィルム、アテネ・フランセ文化センター
【字幕】太田 直子
【公開】１９９７年
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