「さきがけ山」の方の家屋が引越しで、置き去りにされた飼い犬が、秋津高校に寄り付き、高校の文化祭「とんぼ祭」で急遽、西郷隆盛の犬になり、その後高校用務員室に居ついてクロと呼ばれるようになる。
犬の物語だけではなく、高校生の恋愛も同時進行する脚本でそちらもしっかり描かれている。この２つがうまくシンクロしているため、出来のいい映画になっていると言っていいと思う。実話を基にしている映画は脚本が悪いものが多いような気がする中で、この映画は大胆に原作を離れオリジナルな脚本を作ったのが良かったのではないでしょうか。ただ原作者はその点、ある程度不満だったようで、犬の葬式ではなく、追悼式を行っただけなので坊さんなどいなかったし、クロを嫌がる先生もいなかったと。でもこの映画の公式サイトでは、葬式で読経した人は実際のクロの葬儀でも読経したと書かれてある。どちらが本当なのだろうか？
それでも、文部科学省選定映画だからでしょうか、基本的に悪役はおらず、神戸孝二役をやった新井浩文によれば、いい人ばかりの映画で、自分は好きではない、そうである。
映画の中での舞台は長野電鉄沿いである。山岳風景も何度か出てくるが、どこかわからない。ラストシーンは初冬の山々をバックに二人が歩いていくシーンであった。このときに見える山々もわからなかったが、どうやら伊那谷から見た南アルプスらしい。南アルプスとは意外で全然気づかなかった。ということで、もう一度ＤＶＤを見て、調べてみると、しっかり影は左についていました。つまり右が南に近い。よって、伊那谷からの南アルプスだと見当がつきます。ではどの山でしょう。中央の一番白いのが甲斐駒ヶ岳で右が仙丈ヶ岳だろうと見当をつけて見ると、やはりそうでした。ロケ地は伊那市あたりでしょうか。こうしてようやく気になる山がわかりました。ラスト以外にも甲斐駒、仙丈がアップで映し出されるシーンもありました。ただその直後長野電鉄湯田中行きの電車が出てくるので、最初はわかりませんでした。他には松本市や上田市でもロケが行われたようです。
山をやっている人間にとって、松本深志高校と言えば、昭和42年8月1日13時半頃、西穂高岳集団登山での落雷による１１人死亡（１３人重軽傷）事故が有名である。独標付近を下山中に落雷に遭ったもので、日本最大の落雷事故と言われている。金属類をたくさん付けていた人が助かったという。避雷針みたいな役目をするのでしょう。この頃、高校にクロはいたのである。映画では友人がバイクで死亡するが、原作ではこの落雷事故で仲間が死ぬそうです（私は原作を読んでいません）。
高校に犬がいるというはあまりないとは思うが、大学の授業に犬を連れてくる学生はいた。彼は私のワンゲル部の後輩だったこともあり、また山岳部に移って岩登りを始め、私がワンゲルを卒部してから私に岩登りを教えてくれた人でもあった。その後、ヒマラヤで初登頂を果たし下山途中で病死してしまったのです。
また、教授でも大学に犬を連れてきていた人がいました。その人は山岳部顧問でもあり、私の研究室の教授でもありました。
映画では文化祭で使用した木材を夜に燃やしてキャンプファイアーみたいなことをしていました。これはどこでもやっているのでしょうか。私は高校の時にそうした記憶はありませんが（町中だったから？）、大学の時はみこし行列の後、ケンカみこしをして、夜に河原で燃やしていた記憶があります。
最後のコーラスには原田知世も参加していたそうです。『時をかける少女』の舞台にもこの松本深志高校が使用された縁でしょうか。この高校はそれほど立派なもので、文化財にも指定されるなど、「学都」松本らしさがここにもあるのかもしれません。
妻夫木聡はなかなか似合っていたように思います。さすがに獣医の格好はちょっと狙い過ぎの感も否めませんが、まあそれなりに見ることができました。『ジョゼと虎と魚たち』ではあまり似合ってなかったような気がしますが、やはり高校生役がはまり役なのでしょうか。それは『６９ sixty nine シクスティナイン』でも同様でした。 ということは今後が心配？
他では、斎藤守役の佐藤隆太が好演していたと思いました。
主題歌の「青春の影」は昭和49年のヒットなので、この時代より少し後になるのでしょう。なぜこの歌が選ばれたのでしょうか。確かにいい歌ですが。
評価：７４点
【監督】松岡錠司
【脚本】松岡錠司、平松恵美子、石川勝己
【原作】藤岡改造 『職員会議に出た犬・クロ』（郷土出版社刊）
（1923年松本市生まれ 元松本深志高校国語教師）
【撮影】笠松則通
【音楽プロデュース】岩代太郎
【音楽】Unknown Soup & Spice
（Unknown Soup：岩代太郎とモダンチョキチョキズの濱田マリのユニット）
【主題歌】「青春の影」歌：チューリップ、作詞・作曲：財津和夫
【ドッグ・トレーナー】山本一
【出演】
妻夫木聡（木村亮介役）、
伊藤歩（五十嵐暫子役）、
新井浩文（バイク事故で死亡する神戸孝二役）、
金井勇太（クロの子供を飼っている森下賢治役）、
佐藤隆太（斎藤守役）、
井川比佐志（用務員大河内徳次郎役）、
近藤公園（宮本伸二役）、
三輪明日美（横川町子役）、
田辺誠一（三枝辺吾役）、
塩見三省（教頭草間敏役）、
余貴美子（保健の先生結城えり役）、
柄本明（獣医花園修造役）、
りりィ（ラーメン屋女主人森下照代役）、
渡辺美佐子（牧野校長役）、
根岸季衣（獣医の奥さん役）
【製作】シネカノン、電通、衛星劇場、ハピネット・ピクチャーズ、アーティストフィルム
文部科学省選定
【推薦団体】（財）日本動物愛護協会 他
【撮影協力】長野県松本深志高校、松商学園高等学校、あがたの森文化会館 他
【上映時間】１時間４０分
２００３年作品
