どんぐり 文字がない絵本です。絵がメインの絵本ではなく、絵のみの絵本です。絵は、モノクロとカラーのハイブリッド。
木からどんぐりが落ち、ネズミに食べられたりカケスが持って行ったり。虫が入って穴のあいたどんぐりもあります。残ったどんぐりから根が出て、葉が出ます。葉はシカに食べられたり、芋虫に食べられたり。どんぐりはコナラでしょうか。他に、ヤブコウジでしょうか、赤い実をつけた小さな木らしきものもあります。キッコウハグマ、ハルリンドウ、ホタルカズラらしき野草も見えます。
問題はこれから。葉が成長して大きくなったのでしょうか。１回見ただけでは気づかないいろいろなものが、２回、３回とめくると見えてきます。ひょっとしたら子どもは１ページずつじっくり見ていろいろなことに気づくのかもしれませんが、大人はつい先を急いでしまいます。いずれにしてもじっくり見ると、色がついたものだけでなく、モノクロのものにも目がいくようになります。これは、実際の自然の中でも同じです。最初に目につくもののほかに、じっくり見ると、いろいろなものが見えてきます。自然観察とはそういうものです。ネズミも最初はリスだと思いました。
文字がなく、あっさり最後まで行ってしまうかもしれませんが、それだけではほとんどこの絵本の価値はわからないでしょう。じっくり見たり、見返したりすると、この絵本がなかなか深いということがわかるのではないかと思います。
作者のたてのひろし（舘野鴻）氏は、中学高校で生物部に所属していて、その後、アジア航測で生物調査のアルバイトなどもしていたという経歴があるようです。他に『しでむし』、『ぎふちょう』などの絵本を描いています。
【作】たての ひろし
【発行所】小峰書店
【発行日】2023年9月1日 第1刷
