そしてお松が水を汲みに行っている間に、老巡礼は斬られてしまいます。斬ったのは机竜之助（市川雷蔵）。斬った理由は何もありません。たまたま峠で居合わせただけです。この机竜之助が主人公です。お松は通りがかった盗賊裏宿の七兵衛（見明凡太郎）に助けられます。
竜之助は、御嶽山（みたけさん）奉納試合で字津木文之丞（丹羽又三郎）と戦うことになっていて、文之丞の妻お浜（中村玉緒）は夫が実力的に勝てないことがわかっていて、負けてくれるように竜之助に頼みに行きます。しかし竜之助はその頼みをはねつけ、さらにお浜を犯します。このようにして竜之助は恨まれる相手を作り、命を狙われるようになっていきます。
主人公の机竜之助は理由なき殺人者。そんなのが主人公なのに人気シリーズだったのですね。現代ではそんな殺人をしただけで表面的な非難一辺倒の世論になってしまいますが、当時は、そんな殺人者にも何らかの理由を見出そうとしたり、感情移入してその心の底を覗こうとしたのでしょうか。心豊かな時代だったのかもしれません。
このような机竜之助像は、例えば『理由なき殺人の物語―『大菩薩峠』をめぐって』（高橋敏夫）などにも書かれているようです。残念ながら私はまだ読んでいませんので、どんな内容かはわかりませんが。
主演の市川雷蔵は京都生まれで、関西歌舞伎の名門で養子になり、八代目市川雷蔵を襲名。1954年に大映に入社し、1960年代には勝新太郎とともに大映を支えるトップスターになりました。『眠狂四郎』などのヒットシリーズがあります。しかし1969年、37歳の若さで癌のため死亡しました。
お浜を演じた中村玉緒は、当時20歳前後ですが、気の強い性格の女性を熱演し、この映画で最も注目できるかもしれません。
字津木文之丞の仇を討とうとする弟の字津木兵馬を演じる本郷功次郎は、ＴＶの『特捜最前線』で馴染みですが、この映画ではそれほどの存在感はありませんでした。ただ、映画のラストは、机龍之助と宇津木兵馬との対決シーンが始まるところでした。そして「終 第一部」となります。
この映画は、大映『大菩薩峠』シリーズ第１作で、『大菩薩峠 竜神の巻』、『大菩薩峠 完結篇』と合わせ、三部作となっているのです。
評価：７０点
【監督】三隅研次（みすみ けんじ）
【脚本】衣笠貞之助（きぬがさ ていのすけ）
【原作】中里介山（なかざと かいざん）
【撮影】今井ひろし
【音楽】鈴木静一
【出演】
市川雷蔵（机竜之助（つくえりゅうのすけ）役）、
中村玉緒（宇津木文之丞の妻 お浜、旅のお豊役）、
山本富士子（老巡礼の孫娘 お松役）、
本郷功次郎（宇津木文之丞（うつきぶんのじょう）の弟 兵馬（ひょうま）役）、
見明凡太郎（みあけぼんたろう）（お松を助ける盗賊裏宿の七兵衛役）、
笠智衆（りゅうちしゅう）（机弾正（つくえだんじょう）役）、
島田正吾（しまだしょうご）（新国劇）（江戸の島田虎之助役）、
丹羽又三郎（にわまたさぶろう）（宇津木文之丞役）、
真塩洋一（太めの水車番 与八役）、
菅原謙二（近藤勇役）、
根上淳（ねがみじゅん）（芹沢鴨役）、
島田竜三（しまだりゅうぞう）（神屋主膳役）、
千葉敏郎（ちばとしお）（土方歳三役）、
阿井美千子（あいみちこ）（お絹役）、
藤原礼子（ふじわられいこ）（御雪太夫役）、
舟木洋一（ふなきよういち）（真三郎役）、
山路義人（やまじよしんど）（小野川役）、
荒木忍（あらきしのぶ）（中村一心斎役）、
花布辰男（はなぶたつお）（逸見利泰役）、
南部彰三（なんぶしょうぞう）（片柳伴次郎役）、
葛木香一（かつらぎこういち）（藤作役）、
伊達三郎（だてさぶろう）（平間重助役）、
市川謹也（いちかわきんや）（安藤役）、
光岡龍三郎（みつおかりゅうざぶろう）（黒坂役）、
水原浩一（みずはらこういち）（赤目役）、
石原須磨男（いしはらすまお）（一膳飯屋の亭主役）、
浅尾奥山（茶屋の老爺役）、
藤川準（ふじかわじゅん）（雲助の六造役）、
岩田正（いわたただし）（太田役）、
清水明（しみずあきら）（雲助の三造役）、
大林一夫（おおばやしかずお）（逸見の門弟役）、
安田洋郎（旅の武芸者役）、
浜田雄史（芳村役）、
木村玄（岡田弥市役）、
森田健二（加藤主税役）
【上映時間】１時間４５分
【製作】大映（京都撮影所）
１９６０年作品
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